原状回復に関してのご相談が年に何件か必ずありますが、その中で最も多いご相談が「B工事の見積金額に対する妥当性」と「原状回復の範囲」に関するものです。

建物の貸主に借主が解約通知を送ると、当然のことながら原状回復してくださいという話になります。商業物件の場合、契約内容により若干の幅はありますが大体3ヶ月から6カ月前には借主は貸主に対して解約予告をしなければならないという契約になっています。6カ月前予告ならば割と時間的余裕はありますが、3ヶ月前予告だと解約通知を出してしまえば、割と即座に原状回復の準備に入る必要があります。そうすると貸主は直ぐにB工事の見積手配を始めることから、B工事の見積書が借主の手元に届くというわけです。

B工事の見積金額に対する妥当性

この「B工事」ですが、貸主がこの部分は借主手配の工事(C工事)ではさせたくないものをB工事に指定しています。C工事でさせたくない理由は、解り易く説明すると、C工事で何か工事上の失敗があったときに、➀他のテナントにまで迷惑が及んでしまう可能性がある、➁建物全体の防災や安全上問題となる可能性がある、などです。つまり貸主にリスクが伴う工事だということです。ですから、B工事は大体の場合、この建物を建てた会社、又は建物を管理している会社が手配する専門業者に依頼されます。しかし、見積書が建物を建てた会社、又は管理会社の名前で出てきますから、大体が少し割高な見積になっている場合が多いと思います。

B工事の見積金額の妥当性の答えは「妥当です」

結論から先にお話しましたが、金額は殆どの場合、妥当なものです。何故なら、ゼネコンや管理会社もB工事を仕事で請け負っている以上、何か起きた場合には管理責任を問われるからです。ですから、専門業者に直接依頼するよりも割高になるのは致し方ないことでもあります。工事内容の妥当性については、見積を見ただけでは素人には解らないと思います。こういう場合には、借主も専門家に確認してもらうしかありません。しかし、専門家も見積書だけを見ただけでは実は判断できない部分があります。それは、B工事がどういう方針でどのように行おうとしているのかによって見積自体が異なってくるからです。専門家だと、この部分の確認と場合によっては、C工事との取り合い部分での施工方法などの変更によりコストダウンを提案できるかもしれません。


しかし、値引き交渉の余地はあります。

値引きは一切できませんというようなことは今時どんな一流企業と言えども、そんな殿様商売はできない時代です。また、B工事は建物の所有者が支払う工事では無いため、彼らからすれば一限客のようなものですから、高めの金額で見積もられていますから、値引きの余地は残されていると言えます。
ですから、幾ら出て行く立場だとしても 臆することなく値引き交渉はしてよいと思います。

原状回復の範囲

「原状回復」とは、「借りる以前にあった状態に戻す」ということです。つまり、原状回復の範囲を決めるのは、借りる以前の状態がどういう状態であったかということがポイントになります。実は、この借りる以前の状態が曖昧な場合に原状回復の範囲でもめることになるのです。

これは、借りる時、つまり契約締結時に現状の確認を双方立ち合いでしっかり行っておけば、こういうトラブルは防ぐことが出来ます。勿論、その時の現場写真なども撮っておくことで確認することができます。しかし、本来なら完全にスケルトンである筈の物件が、部分的に設備が残してあったりする場合があります。多いのが飲食店用の外部排気ダクト設備、次に多いのがトイレや手洗いなどで、これが誰の所有として定義されているのか明確にしないまま契約して、店を始めてしまった場合、出て行くときには原状回復をスケルトン状態から後付けしたものが完全撤去として考えている家主と、自分たちが造作したもののみ撤去するという借主との考え方の違いで原状の認識にズレがあったりするのです。また、契約書にはスケルトンに戻すと書かれていて、残置設備がある場合なども、それを借りた人にとってはラッキーでも、出て行くときには契約書通りにしてくれと言われる場合があるのです。

しかし、曖昧なままで残置設備を利用してしまった借主にも問題はあるし、次のテナントが付きやすいように残すのをそれ以前のテナントに承諾した貸主も悪いわけですから、そこは両者痛み分けとするのが良いのですが、最終的にはお金の問題になることから、なかなか難しい問題になってしまったりします。
この場合、貸主と誠意を持って十分な協議を行う必要があります。

さて、更に難しい問題があります。

それが、建物の建築と同時進行で借主が出店のための工事を進めるケースです。この時には、原状確認無しに工事はスタートしていますから、元の状態を誰も見ていないわけです。そうなると、防災設備等のる設備関係はそのお店に合った形で最初から工事されてしまうことから、借主が店をやめて出て行く場合の原状は何になるのかというと、その建物計画上のテナント工事がされていないスケルトン状態の竣工計画図になってしまうのです。

本来であれば、建物を建てて建築会社から施主が引き渡しを受けてから、テナントへの貸し出しが始まるわけですが、最近は建物の引渡しと同時にテナントも竣工するという物件もあります。そうすることで建物の持ち主の家賃収入の無い期間を極力無くそうという発想なのです。しかし、契約書にはハッキリと原状回復義務が書いてあり、その現状の定義は竣工計画図と言うことになるのです。この辺りは契約時にきちんとチェックが本来なら必要となります。

これも本来は貸主と十分に協議するべきことですが、大体の場合、管理会社が半ば強引に貸主の意向として原状回復はこのように行ってくださいという話をしてくる傾向にあります。そうすると、自分の店を解体撤去するだけではなく、解体後の空間を法令上問題ない状態にする必要があり、退去者がその法令上必要な設備工事まで「B工事」で行うことになってしまう場合もあるのです。

どうしても出店する側としては、契約時にあまり貸主に面倒な話はし辛い立場にありますから、解約時の原状回復の定義についての話は言い出しにくいかと思います。しかし、申し込みを入れて貸主の審査も終わり、契約書の確認段階まで来たら、やはり将来において絶対に出て行かないということは言えないわけですから、この段階で双方が将来嫌な思いをしないためにも、しっかりと原状回復の定義を確認しておくべきです。

そして、それが最初の段階で出来ていなかった場合には、最終的に弱い立場にあるのは、契約解除を申し出た側になってしまいます。貸主側の要求通りに原状回復がされなかった場合には、保証金の返還も受けられなくなる可能性もありますし、更に話がこじれて裁判ということになってしまっては、本末転倒です。
ですから、退去する場合には、できるだけ早い段階で話し合いをしっかり持つこと、そしてできれば専門家を同伴のうえで交渉にのぞまれることをオススメします。

MORIWORKS CO.,LDT

当社では、原状回復工事のお見積り手配から、貸主様側との交渉等、閉店退去時の様々なご相談も受付けています。