お店の工事を行う際に建築関係者がよく使う言葉として、「A工事」「B工事」「C工事」という用語があります。少しでも店舗関係の工事に関わったことがある人なら誰でも聞いたことがあると思いますが、最初はワケが解らず戸惑うものです。また、建築関係者は日常的に使う言葉なので、ついつい打合せの際に素人さんの居る場所で使ってしまいます。理由は、これに代わる一言で表現できるいい言葉がないからです。

そもそも、出店しようと考えて自分の所有する建物で出店するのであれば、この用語が現場などで使われることはありません。何故なら、僕たち業者から見てこの工事の施主は建物の所有者だけだからです。しかし、テナント物件の工事(賃貸店舗の工事)の場合、そのあたりが変わってくることから、このような用語を用いているというわけです。

ポイントは誰の持ち物で誰が責任を負い誰がお金を払うか

何故このような用語を用いるのかと言うと、建物は明らかに貸主の所有物ですが、貸室内の内装を含めた物品や屋外の外壁に取り付けた看板類などは借主の所有物です。しかし、貸主が元から準備している看板があったり、貸室内にも貸主が設置している建物の基本設備などがあります。このようにテナント物件を使用する場合には、幾ら貸室内と言えども所有権が異なる物が混在するわけです。こういった中で工事を行う時に、誰の所有なのか、誰が責任を持つのか、誰が工事業者の選ぶのか、そして、誰がお金を支払うのかと言ったことが工事内容によって変わることから、それを一言で表現するためにこのような言葉を用いるのです。

では、個々に説明してゆきましょう。

A工事

「A工事」は通称「家主側工事」とか「ビル側工事」とも呼ばれていて、その工事の施主は貸主(家主)、そして費用負担も貸主(家主)と言う工事のことを言います。ですから、その工事をした物の所有権や管理責任も当然のことながら貸主にあります。つまり、単純に言えば「建物の所有者が行いお金も負担する工事」のことですが、その前提条件として「テナントの工事を行う際に…」という条件が付く場合の工事のときに「A工事」と呼ぶわけです。また、この場合に工事を行う業者のことを「A工事業者」と呼びます。

B工事

「B工事」は通称「家主指定業者工事」とも呼ばれていて、その工事の施主は借主(テナント)、そして費用負担も借主(テナント)なのですが、工事業者は貸主(家主)が指定する業者で施工する工事のことを言います。この場合、その工事をした物の所有権や管理責任は借主(テナント)にありますが、仮にその部分で不具合が起きた場合には、同様に貸主(家主)の指定する工事業者によって補修工事を行い、費用は借主(テナント)が支払います。この場合、工事を行う業者のことを「B工事業者」と呼びます。

C工事

「C工事」は通称「テナント側工事」とも呼ばれていて、その工事の施主は借主(テナント)、費用負担も借主(テナント)という工事で、その後の管理責任や所有権も借主(テナント)という工事です。この工事を行う業者のことは「C工事業者」と呼びます。

B工事は工事区分表であらかじめ規定されている

「A工事」と「C工事」はそれぞれの施主の意向で自由に工事を行うことができますが、「B工事」についてはテナントの意向で自由に行わせるわけにはゆかないものを「B工事」としています。この「B工事」は、賃貸契約時の工事区分表で規定されていますので、契約前に必ず確認しておくことをお勧めします。
※確認しておいた方は良い理由についてはお問い合わせください。

何故「B工事」はあるのか

「B工事」がある最大の理由は、建物側の基本機能をテナント側の理由で改変する必要が生じる場合があるからです。

具体的な事例で説明すると、元々の建物が想定していた総電気容量に対して、新たに入ったテナントは想定以上の電気を使用する場合、電力会社からの電気の引き込み線自体を変更したり、受電設備や分電盤の改変、更にテナント区画までの幹線(分電盤から部屋まで引き込まれている電線)を引き直すなどの工事が必要となります。このような場合には、他のテナントも共用している建物側の電気設備を改変することになることから、本来であれば建物側の工事として見直しを行う必要があります。しかし、そこで建物側が費用まで負担するのはおかしい話です。何故なら、その工事は新たなテナントでしか必要としないからです。ですから、建物側としては新たなテナントに工事費用の負担を求めるわけです。また、工事時間帯の停電や他のテナントに障害が出ないように工事を行う必要もあり、建物の所有者としては慎重にならざるを得ないわけです。また、この電気工事による改変部分は新たなテナントのためだけに行ったわけですから、基本的にはそのテナントが出て行くときには元に戻す必要があります。つまり、その部分の所有権は原則的に新たなテナントにあるわけです。※厳密には、切り分けが不可能な場合については費用負担や所有権を含めて協議となる場合があります。

このように、他のテナントや建物の基本的な躯体や構造、インフラとなる設備などに影響するような工事の場合には、その建物の建築に関わった業者や建物の所有者が信頼のおける業者に依頼して、充分に建物所有者の意向を汲んだ形で工事を行う(リスクヘッジを図る)必要性があることから、「B工事」という形になるわけです。ですから、施主はテナントであっても工事内容の確認等は建物の所有者とも行われ、基本的にはテナントの要望に応じる形で建物の所有者がB工事業者の工事内容について了解したのちに施工されるという流れになっています。

B工事の施主ははあくまでもテナントですから価格交渉も可能です

「B工事」に関するご相談で最も多いのが、「B工事」の見積内容や価格が妥当であるかどうかの判断をして欲しいというものです。
正直な話をさせて頂くと、「B工事」の最初に提示される見積書は高い傾向にはあります。しかし、幾ら建物側の指定業者であっても、価格交渉ができないということは今の世の中ではありえないことです。一昔前なら、「嫌なら入居するのを取り止めてもいいよ」という態度の建物所有者もいたことは否めません。しかし、今はなかなかそんなことを言える時代でもありませんし、余程の超人気物件でない限りは、そんなことを言われる心配も無いと思います。
また、「B工事」の費用に関するトラブルは近年少なくないことから、工事費用に関する話はB工事業者とテナント間で直接やりとりさせ、建物所有者は工事内容以外のことについては一切関知しないという傾向にあります。

B工事金額の妥当性は見積書だけでは判断できない

工事金額や工事内容が適正なものであるかの判断は、余程細かく明細が記載されている見積書でない限り見ただけでは殆どわかりません。判断するためには、B工事業者に対して施工内容の具体的な説明を求め、建物の竣工図なども確認のうえ、見積の根拠を説明してもらうことになります。そのうえで工事単価が法外な金額では無いか、更に管理会社を通して「B工事」が手配されている場合には、管理会社の手数料も上乗せされている場合が殆どですので、そのあたりを考慮して判断することになります。
また、最近はとても良心的なB工事業者も多く、「C工事」で出してくるような見積金額を最初から「B工事」で提示してくる業者もいて、一概に全ての「B工事」の見積書が高いとは言えなくなってきています。

MORIWORKS CO.,LDT

当社ではB工事の建物所有者様からのご依頼も数多くあります。ご依頼の理由は、既に建物が古く施工した会社が無くなってしまったというケースや、竣工図書を貸したまま返却されず誰が持っているのかも解らなくなってしまったので、B工事の見積自体が難しいことなどです。建築士や設備会社と言っても、得意分野は其々でなかなか的確なアドバイスを貰えないということもあるようです。
当社は建築士や専門業者においても最適な人材をキャスティングすることを得意としていますから、最適な人選でアドバイスやお見積りをさせて頂いています。また、建築的に難しい内容などに対しても、それに類する案件の経験ある適切な人材をキャスティングして対応致します。

是非、お気軽にご相談ください。